『ザンの日記 4日目』
(ブーン、という音が聞こえて)
や、やべぇ、ちょっと今日は時間がねえかもしれねぇ。
報告あとでできたらすんからよ、ちょっと今日はタンマな!
ばっきゃろう、サボりじゃねえよ!
サツだよサツ!!
警察がこの島まできてやがんだよ!!!
昨日やった盗撮バレたらしょっぴかれるっての!!!
わりーがこんな日記いってるばあいじゃねえ。
とにかく情報あつめねえとな…
オッサンもヤバい道渡ってきてんだろ?
頑張って情報あつめてくれよな!
んじゃ、今日はここまでだ。
女の子とは順調に出会えてるから心配すんなって。
(ぷつり。それっきり沈黙した)
―プロローグ2―
薄暗い部屋。ほのかに揺れる炎。
広がる光。10メートル四方の部屋、といったところだろうか。
部屋の中央には魔法陣が描かれていた。
一応体裁は整えてあるものの、見る者が見れば判るでたらめさである。
「さて、そろそろ来る頃だが……」
低い声。紫の影が魔法陣の前に立っていた。
何かを待っているようだ。
「戻ってくることはわかってんだ。あとは誘導してやりゃいいはずなんだがな…」
そう呟いたきり、沈黙が続く。
そして、どれほどの時間がたったころだろうか。
影が半分寝ているのか、涎がぽつりと床に落ちた時。
突如魔法陣がうっすらと光を放ちはじめる。
「おおっ?!きたきたきた、道はつながったみてぇだな!
あとは無事扉を開けるかどうか。頼むぜ!」
魔法陣の光は定期的に瞬きながら、その光を強くしてゆく。
光の色は青。ときどき紫の光が混じるも、それは酷く弱い。
「青のままじゃダメだな。おっさんの色…紫に赤、あと緑あたりが強くなってくれねぇと…」
魔法陣の光が跳ねる。黄色や藍、といった光が青に混じり始めた。橙の光も時折浮かぶ。
しかし赤や紫の光は依然として弱いままである。
「爺さん、なにしてんだよ。あっちの世界にそんな未練があんのか?
ドワーフ娘に会いたくねえのか?可愛い髭をなでたくねぇのか?」
男が話しかける。その声に応じたか、強い緑の光が現れた。
でたらめな模様が虹色に彩られてゆく。赤、そして青が混じり紫も徐々に強くなっていき。
「おめえの生きる場所はそっちじゃねえ!
闇から抜けて、太陽の下で己を高めな!
逃げてばっかりじゃ何も得られねえぜ……爺さんよ!!
流れる血がある限り……帰って来い、ガルフ=クロフィールド!!」
光。七色の光が、奔流となりて魔法陣より迸る。
青、黄色、藍、橙――光の原則を無視したそれらの光は、部屋の天井へと垂直に立ち上り。
やがて、緑の太い光―――それを赤と紫の光が取り巻いてゆく。
ついには虹の竜が魔法陣より現れて――――
どぉぉぉぉぉぉぉぉん!!
影が、魔法陣が、いや部屋が揺れた。
轟音と共に光はおさまり、闇の中から現れたのは。
「まったく、うるさいヤツじゃの。約束は守るんじゃろな?」
老ドワーフであった。背丈、30cmの。
「…………まあ、問題なしだな」
「ちょっと待つぞいー?!なんだか、おぬしがすんごい大きくなってないかの?!」
「気にするな、直に慣れるさ。それより祝杯といこうぜ、祝杯」
「人の話を聞かんとゴブリンのエサにしてやるぞい!!!」
「ああ、酒はこれならグラス一杯で済むな。いやー酒代心配してたが問題解決だな、はっはっは!」
「そんな問題じゃないぞいー!!」
(続く)