-SummerVacation- 『男の浪漫飛行』
澄み切った空。爽やかな朝陽。堂々たる海の家。
「これぞ…夏って感じだよな!」
「いいから品物運べ」
島の朝。海辺にて作業を進める男2人の姿があった。
「樹上、視界クリア」「シャワー出力OKだぜ」「壁も問題ない」
予想以上の仕事振振りに紫色アロハシャツの男は目を細める。
「…よし。あとはアルバイトをうまく使えば何とかなるだろ」
「へへ、任せておけっての」
「ナマモノは昼前にもう一度仕入れうから、抜かりなくな」
「おうよ。生の裸拝めるのによ、サボりゃしねぇってよ!」
「三次元は別格だからな。瞼に焼き付けておけ」
こうして、熱い夏の闘いの幕が開けたのである。
それからしばらく後、砂浜に6名の男子が集まった。アルバイトの面々だ。
「おう、俺がザンだ。店長ってところか。海を盛り上げるためにもよ、宜しく頼むぜ」
ざっと顔ぶれを見回すと結構な美形揃い。思わず舌を打つ。
軽い自己紹介と挨拶を済ませた後、早速作業に取り掛かる。
主な仕事は昼に向けての仕込み、在庫のチェックであった。
そうこうするうちに開店、早くも席が埋まり始める。
「いらっしゃいませ、ご注文は」「い、いらっしゃいませー!」
予想通り客の大半は女性客であった。冒険者自体女性が多いのだから当然ではある。
慣れないながらも何とかこなすホールの面々。
初々しさがかえって好印象なのか、女性客からの受けはいいようだ。
「ちっ、これがイケメン補正ってやつか」
ドリンクを作りながらもギリギリッと歯を食いしばるザン。
調理担当のソル(30代)は横で淡々と鍋を振っている。
さらにその横、洗い場のオルクス(40代)は今のところ一番暇のはずだが早くも顔色が悪い。
「おいザン、あのオッサン大丈夫かよ」
相変わらず偉そうなチェス(18)ですら心配そうだ。口が悪いため掃除や調理補助をさせられているが働きっぷりはいい。
この施設の真の目的を知っているのだろう、こっそりやる気を感じる。
「時々おめぇが手伝うしかねぇな…おい、水もっていってやれ」
夏の厨房は特に暑い。適度に水分を摂らせるのも重要なことである。
ホール組は、と見ればアドニス(16)が気配りして他2人に時々水を飲ませていた。
「…アイツだけ別格かよ。さすがに助っ人だけはあるな…!」
アドニスは紫の男が直々に引っ張ってきた助っ人である。当然目的も知っている。
そのアドニスの友人というリマ(外見16)はどうやら何も知らされずに連れて来られたようだ。
「ありがとうございましたー」
もう1人のホール、草平(18)もなかなか頑張っていた。普段は暗い、らしいが女性客には声が上ずりがちである。
「俺にはわかるぜ、あいつぁムッツリだ」
彼も時々海辺の美女を見つめていた。もっとも、ザンはその10倍美女を見ていたのだが。
そうこうするうちに、時も経ち店内の座席は空きを見つけにくくなっていた。
水着に着替えるついでに軽食をとる女性客が多い。
「結構忙しくなってきたな。そろそろ女の子達来るはずだけど…お、きたきた」
女の子バイトのプロフィールはもちろん確認済みである。
水着の子の1人が一瞬裸エプロンに見えて鼻血を噴き掛けたりしつつ、順次説明していく。
そして、最も期待していた女性助っ人も到着。
「へへ、あんたが噂のリンちゃんか。手から酒…期待してるぜ!」
七夕の奇跡だか呪いにより、なんと手のひらから酒を出せる術。
早くも島の七不思議に挙げられる程話題性は高い。早速披露してもらうと一同から驚嘆の声。
「こりゃ使えるな…チェス、急いで看板に書き足して来い!手から酒生実演、ってよ!」
これにより昼間っから酔っ払う冒険者が急増したのだが、それはまた別の話である。
女の子バイトの参加により余裕ができ、いよいよ昼ピークに向けての仕込を詰めていく。
「肉たりねえ肉!」「店長の肉切ればいいじゃないですか!」「氷急いで!」
「おお手から酒がー?!」「きゃぁっ」「おにーさん、お釣り間違えてるわよ」
「帽子に水着はいかがですかー」「………ヘンタイ」
混沌ながらも、なんとか仕込みと補充がひと段落し。
ようやく昼ピーク前、男性陣の休憩時間になった。
丁度水着に着替える女性も多いようだ。いよいよ、その時である。
「よ、ようやくか…長かったな…」
「つ、疲れた…」「流石にキツいですね」
「アドニスはネルちゃんとイチャつきすぎだっての」
「そうだそうだ」「全くだよな」「あれはいかん」
休憩に倉庫整理も兼ねて、男性陣全員で倉庫に移動すがら話の花が咲く。
まずはホールで女の子バイトと楽しそうだったアドニスに集中砲火である。
「だから、彼女じゃないですよ。そういうリマだって楽しそうだったじゃない?」
「オ、俺は別に」「リマもモテてたよな…」「草平君もね」
「そ、そっちも厘子さんやカレンさんと楽しそうでした」
「厘子ちゃんは胸大きかったよな、うん」「ヴァリシエさんも綺麗でした」「………」
そんなこんなで倉庫に着く。オルクスは疲労で喋る気力もないようだった。
「よーし、飯だ飯。飯の前にひと仕事すりゃ、あとは飲み物とかつまみ、少しくらい在庫から出してもいいぜ」
歓声があがる。調理してると特に腹が空くものである。
「やけに太っ腹だな」「へへ、何せ大仕事だからな」「…大仕事?」
一同の視線がザンに集まる。2名ほど、何かわかっているようだが…
「へへへ。俺たちゃ今倉庫にいるんだけどよ、この隣の部屋が何か知ってるか?」
「壁、だけじゃないっすよね」
「あとは、確か無料のシャワー室と…更衣室」
「………まさか」
男達の声が自然と小さくなった。
「おうよ。あの壁一枚ぬけりゃ、女の子の着替えシーンってわけだ」
壁を見る男達。途端に妄想があふれ出す。冷めた目で見る者もいるが。
それからしばらくの間、倉庫に沈黙が流れた。
「あそこにでっかい箱あるだろ?夕方用、って貼られたのがよ。あれを動かすぜ」
ザンに引きずられて壁際に移動する男達。声は一段と小さくなり、ささやきに近くなる。
目の前には、2mはあるかという巨大な箱。ザンが目配せで男達に合図する。
「ひょっとして、この向こうが…」
「おう、極楽パラダイスだぜ…!」
「やれやれ…」
オルクスとリマが興味なさげな視線。
「おう、これも仕事だかんよ、ちゃんとやれよ。ほら、そーっとだぞそーっと」
すすす。すすーっ。箱を僅かに浮かせて少しずつずらしてゆく。今まで隠されていた壁が明らかになり――
ザンが人差し指を口にあてた。声は限りなく小さくなる。
「ここだ、ここ…」「あ、穴が…」
ごくり。誰かがつばを飲み込む音が聞こえた。
「ど、どうします」「そりゃ見るに決まってんだろ」
「そんなの興味ねーし」「じゃチェス、お前アドニスと見張りな」
「えっ」
こうして2人が脱落した。アドニスは明らかに先のイチャイチャの件である。
「へ、へへ、じゃあいよいよ…」などと言うザンだが、何か躊躇いがある。
「ビビってます?」「い、いや、誰かが気づくかもしんねえと思うとよ」
「やれやれ、俺が見本を見せてやろう」
ここで先陣を切ったのは意外にもソルだった。壁に音もなく背をつけ、じっと向こうの気配を探る。
そして……一気に穴を覗き込んだ!足音の消し方といい、プロも驚く技である。新たなノゾキスト…!
「や、やるな…で、で、どうなんだよ」「おお、これはこれは…なかなか……」
「く、お、俺も負けてらんねぇ」
どうやら穴は2つあったようだ。ザンが自分専門に確保して身体で隠していたらしい。汚い。
身体をかがめ、穴から覗くと……そこには天国が広がっていた。
(こ、こ、これは すげぇ……)
~R18表現につき中略~
じっくり、それはじっくりと11人の裸を楽しんでいると何か背中にあたるもの。
あたるだけではなく、後ろから背中に圧力を感じる。
ちらっと後ろを見るとチェスが何ともいえない顔をしていた。
興味もない風だが後ろから覗き込んでいるらしい。
「んだよ、お前興味ねえんじゃねえのかよ」
「ば、馬鹿野郎、興味じゃなくて後学のためだ」
「ちっ、仕方ねぇちょっとだけ譲ってやる」
下手に争って揉めるのはまずい。そもそも声をだすのも憚られる状況だ。
ザンが渋々横にどいた途端、チェスが身を滑らせてきた。
「このムッツリめ…」
呪いながら横を見れば、アドニスが楽しそうに穴を覗いている。
向こうは順序良く交代していたようだ。横でリマがつまらなそうに口を尖らせている。
ソルとオルクス年長者組はやや離れた場所で談笑している。手振りからして今見た感想だろう。
草平はぼーっとしている。鼻をつまんでるあたり、鼻血を押さえるのに必死らしい。
「へ、なんだかんだ言ってみんな見てるじゃねえか」
にたりと笑うとアドニス側へ寄る。満足してるのでは、という期待感。
だが……全く終わる気配はなかった。
「おいアドニス、もう十分見ただろ?」
「さっき代わったばっかりですよ」
「お前、そんなノリ気じゃなかったじゃねえか」
「やるからには見ないと損ですから」
どうやら代わる気はさらさら無さそうだ。
ここで引き下がればいいものを、未練たらたらとザンが再びチェスの元に戻る。
「おいっ!もういいだろ、代われよ!」
ちょっと力が入ったか、想像以上に大きな声がでてしまった。
「…ぐ」
何故か草平も結構な声をだしていた。
それに動揺してザンが壁を思いっきり押してしまう。
押すだけならよかったが、体勢を崩して…どけた大箱にタックル。
きっと煩悩に満ちていたのだろう、まるで戦闘時のような強いタックルだ。
箱はぐらりと揺れて、壁に―――――
がらがらがっしゃーーん!
それは箱のせいなのか、それとも壁に突き刺さった武器の数々のせいか。
ともかく、倉庫と更衣室を隔てていた壁はあっけなく崩壊した。
もうもうと立ち込める砂煙の中、男達の視線の先には……美女達。
「キャー、覗きーーーーー!」
同時だった。女達の顔に煩悩の炎を凍てつかせる笑みが浮かぶのと、男達の表情が固まるのと。
「や、やべ」「逃げろ」「うわっ」
矢面に立たされたのは覗き最前線にいた3人。ザンにチェス、そして…リマだった。
どうやらアドニスはリマの足を払い、盾にして逃走を図ったようだ。やはり別格。
ただ…逃げられるほど甘い世の中では、ない。。
どどどどどど。まずは大量の何かが召喚され、投げつけられる。
ステキな肉まんのみゆき嬢だ。攻撃するはずが慌ててどうしようもない物体を召喚してしまったらしい。
「破廉恥な!」「わ、わわ」それに埋もれる草平とザン。チェスとリマは奇跡的に回避し、2人を踏み越えていく。
「て、てめぇら見捨てていく気かよ!」「骨は後で探してやる!」
だがしかし。
「天誅!」
響く轟音、炸裂する閃光。魔王たるフィスの怒りの電撃。
真祖魔王が逃げるリマとチェスを見逃すはずもなかった。
感電する2人を一瞥すると、一番手前で埋もれているザンにゆっくりと近づく。
「はぁ、ふう、はぁ、や、やっと上がみえた…え?」
「あらザン、こんなところで奇遇ね」
下から見上げるとこれまたえろてぃっくな光景。なんて思う余裕はない。
「い、いやこの、なんだその、これは事故だ、うんじk」
「ふふふ……天誅!!」
じっくりと魔力をためての雷撃がザンの全身を貫いた。周囲のどうしようもない物体ごと焼き払う!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁ」
見事な叫び声でザンは倒れた。だが復活するのも早そうだ。フィスは隣の女子に引き渡すと、海の家を足早に出て行った。
その、引き渡された女子。シストとイメトの猫耳?美人姉妹である。
ザンとは知った顔。その分怒りは根深い。特にシストは顔を真っ赤にして怒っていた。
「僕の裸を覗いた罪は重い…」「い、いや、死ぬ、死ぬって!!」
シストは別人のような顔で針を刺している。豊満なおなかにぷすり。もう80本くらい刺さってる。
対するイメトは、大人の余裕なのか寧ろシストを宥める側だ。
「ほらシーちゃん、顔が怖すぎるわよ。私の分も残して死なない程度に、ね?」
「シネェェェェこの変態ーーーーー!!!!」「ひぃぃぃぃぃぃ」
聞く耳はなさそうだ。結局108本刺したところでイメトにバトンタッチした。
許したというより針を投げすぎて限界だったらしい。
「もっと刺せるのに……」「お許しをぉぉぉぉ」
そう言いながら二人の水着姿を下のアングルからガン見しているのが彼らしい。
これだけ喰らいながら死んでいないのは、煩悩補充のおかげだろうか。
「殴れるところあんまり残ってないわね。とりあえず、拳骨で済ませてあげるから、
歯ァ食いしばりなさいね♪」
どごぉぉん!結構な音と共に、ザンがくるくる回って滑っていった。その先は次の女子。
「次のために針探して来ないと」
まだシストは収まらないようだった。ハンマーで吹き飛ばされたリマに狙いを定める。
その後も怒りの残り火は鎮まらず、後に渾身のクラッシュに繋がるのだった。
続いてむっちりボディ半獣の彩乃のターン。ひっとらえたリマを吹っ飛ばしたところへザンが滑ってきた。
この期に及んでも服を着ていない、という天然セクシーっぷりだが…その腕力は本物だ。
「それじゃあいきますよー?」
ザンは動こうと思えば動けるはずだが、真っ裸で胸を揺らされては身動きなどとれるはずもない。
「お、お、おっぱ…」「よいしょー」「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ」
脳天からハンマーを叩きつけられたが、どこか幸せそうな顔だったという――
意識が落ちたのもつかの間。首に圧力を感じたと思ったら、首根っこを捕まれていた。
そろーりと振り向くと…にこやかなリズの顔。なんとも刺激的な水着で豊満なバストが…
なんて見ている場合ではなかった。闘技大会で組んだりした仲、怖さはよーく知っている。
「覚悟はよろしいですね」
「い、いや、だからよ、これ事故だって事故!」
ずるずる。全く聞く耳はないようだ。
隣を見ればぐったりした草平も引きずられていた。気絶している。
「ちょ、ちょっとリズちゃーん?!」
ぱたり。綺麗な銀色の耳が倒れてシャットアウト。そうこうするうちに店の外に出て…
夏の日差しを浴びると、リズの身体が美しく輝いた。まったくもって素晴らしい谷間。
さっき見たから余計に色々想像してしまう。状況も忘れて見入るのは男の性であろう。
「――――最後に言いたいことは?」
「お、おpp」
がしっ。思わずおっぱいと言いかけた。慌てて訂正しようとしたが既に遅し。
ひゅるるるる・・・・・どぼん!
砂浜に向かって2つのアーチが描かれ、派手な水柱が立った。
大量の海水を飲み、塩味と何かが混ざって意識は落ちていき―――
気がつくと、砂浜に転がされていた。横をみると他に数名転がっている。全員かもしれない。
身を起こそうと身体を動かすが、ぴくりとも動かない。何かで縛られているようだが・・・
「どうやら気がついたようですね」
女性の声。必死に目を動かすと身体が転がり、何とか視界に入った。
巫女のイリス。ミニ浴衣に白ハイソという刺激的な格好。先ほど見た左半身は相当グラマーだった。
思い出すと自然に身体が熱くなる。…サポーター装備していてよかった、と思う一瞬。
「髪飾りで縛り上げておきました。さて皆さん、何か仰りたい事は有りますか?」
男達がそれぞれ声をあげる。ザンはというと、色々身をよじるが縄は抜けられそうになかった。
そして――
「氷漬けにしておきましょうかねー」
やや幼女体型気味の猫?らしき耳の娘が明るく言った。
「ちょ、ちょっとまって、俺ガキはみてねぇって!」
「…じゃあ、先にいぶす」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
「それが終わったら斧の練習に使わせてもらうわね。…やさしくするわよ?」
「い、いやそれ死ぬって死ぬってよぉぉ!?」
「特別な料理もご用意してますから」
「いや誰だよてめぇ」
「なんだかいっぱいですね。ではみんな終わったらここに正座してくださいね」
「だからガキは見てないって!」
「ボクにもおいしい思いさせて貰えるカナ?」
「お、俺の財布・・・・・」
他の男子はそれぞれ手分けしておしおきされる中。
ザンは首謀者ということでフルコースを味わったようだ。
体中暑いのか寒いのか、とにかく生き地獄。
終わりには口の中まで地獄がやってくる始末であり。
「な、なんで男がいるんだよー!?あ、あれ、おめえ確かムッツ……」
「覗きはいけませんよ、ねぇ?」
口の中に入った瞬間。ふっ。世界が暗転する。水着美女相手に補充してきた煩悩力も子供や男相手では全く働かない。
遠のく意識の中、もう二度と覗きはしないと誓う男であった。
それからしばらくして。
本日3度目の目覚めを迎えた男。
今度は……何故か全身が砂に埋められていた。
首だけが上に出ている状態だ。
どうやら気絶している間にこうなったらしい。
もちろん女性達の手によるものだろう。
「お、おい、ちょ、ちょっと誰か、誰かいねえのかよ!」
首を横に向けても目ぼしい人影はいない。
妙なことに、近くに人はあまりおらず。
代わりに何故かスイカが沢山置いてある。
そういえば、なんか途中で頭に何か被されて言われたような…
「あれ、魔弓ちゃんじゃなかったっけ」
魔弓。弓矢作製士として名を馳せる少女。
一度練習試合をして脱がせてしまったことがある。
「……ま、まさかよ」
周りにおいてあるスイカ。埋められた自分。これはどうみても・・・
「ひぇぇぇぇぇぇっ?!」
晴れ渡った青空。立ち上る熱気。無残に砕かれるスイカ。響く絶叫。
魔弓主催によるスイカ割り大会は、大盛況であった。
90名近くのエントリー。女性が多いのはターゲットの影響もかなりあるだろう。
「あっれー、外しちゃった」「惜しかったわね、もうちょっとでカチ割れたのに」
「どうせなら横から殴りつけてもいいんじゃない」「…そこだー!」
「しっぽで横薙ぎ、新しいわね」
物騒な言葉が飛び交う。女性陣はノリノリであった。
「い、いや、楽しいってレベルじゃないだろ!!」
中には棒じゃなく“獲物”を使う参加者もおり。
「てかそれ棒じゃないし!斧だって!!」
もちろん、「あたり」の言葉を聞く者などいない。
その間にも参加者は勢いよく棒を振り下ろしてゆく。
「せーの…死ねぇ!」
「ザンさんを始末できると聞いて」
「UUUUUUUUUURRRRRRRRYYYYYYYYYY!!!!!」
「おおおりゃああああああああああ!!」
「不埒なザンを…狙い撃ち…一撃必殺…やー…」
「ふふふ・・・お仕置きに来たよ・・・・・・!!!!!!」
「戦乙女の鉄鎚」「スイカにかいしんのいちげき!」
「……はぁぁっ!!」「では、行きますね・・・――そこっ!!」
どうみても公開処刑であるが気にしてはいけないのだろう。
「巨大丸太を削って作った棒ですよー」
そもそも主催者からして乗り気のようである。
そして、時間もそれなりに経った頃。
復讐に燃えるシストとイメトの姿があった。
「ここはシーちゃんより私の出番よね」「イメト姉、お願い!」
シストの執念がイメトに乗り移ったのだろうか。
イメトは一歩一歩、確実にザンの元へと近づき……
(ちょ、ちょ、なんかこっち見えてるんじゃねえの?!)
もちろん声に出すことはないが、背中を冷たいものが流れていく。
「じゃ、思いっきり行くわよー!」
ゆっくりと棒を振りかぶる。杖術に長けたイメトの構えは美しく――
(お、おう、下から見上げて揺れる胸はたまらねえな…って、や、ヤバ!)
「おおおりゃああああああああああ!!」
煩悩を感じたか気合をこめた一撃は、緩んだザンの脳天を直撃した!
ばっこぉぉぉん!
「…手ごたえ、あり?」「あ、当たったー!イメト姉凄い!」
「おめでとうございます、一等です」
「おおおお、あのねーちゃんやるな」「当たりもってかれちゃった」
どよめく観衆。やや遅れて、満場の拍手が鳴り響いた。
一方、標的の男は……完全に気絶していた。
気絶してても普通にスイカ割りは続けられ、全て終わったのは夕方前だったという。
ここにきてようやく、夏の海の男達の闘いはようやく幕を閉じたのであった。
(覗きに参加された皆様、および魔弓さん、スイカ割りに参加された皆様をお借りしました。
ありがとうございました!)
~another episode 男達の晩夏~
―――時間は戻り、ちょうど壁が崩壊した頃の話。
「へへ、これでバッチリだぜ」
海の家のそばに植えられた不自然な樹。
そこに仕掛けられたカメラ。・・・はダミーである。
そのさらに向こう、小さな岩山のような場所があった。
崖ギリギリ、その岩の間に身を伏せ、手に持った高性能双眼鏡で海の家の方向をみる紫シャツの男。
高望遠機能のついた魔法写真機も持っている。
そう、全ては仕組まれたことであった。
覗きたちを囮に美女の着替えシーンを遠距離から覗く。
さらにそれを保存し、仲間同士でじっくり楽しむ。
クロフィールド工房の支援者の真の目的であった。
「いやいや、今回は前にもまして発育がいいじゃねえか、へへへ」
角度はこの一点のみ、倉庫内を見えるように作ってある。
男が夢中で魔法写真機を動かし、美女の裸を貪っていたその時。
「シン=クロフィールド…覚悟しなさい!」
突然背後からの声。男が凍った顔で後ろを振り向くと……完全武装した女性がズラリと並んでいた。
慌てて崖下をのぞけばそこも包囲されている。
「ま、まて、俺はバードウォッチングってやつをしてただけだ」
「言い訳は無駄よ。あなたの仲間が全て白状したわ」
どさり。蹴られて転がり出てきたのはお縄にかけられた中年の眼鏡男。
支援者の1人である。紫の男は覚悟を決めた。
「ちっ!しかし、どうしてバレた」
「島に入る建材と人間の出入りをチェックしてたのよ」
「この場所も徹底マークしていた。…前に覗きに使われた場所だからな」
「・・・・・不覚をとったか」
遺跡が崩壊する前の島。そこでも覗きは行われた。その場所は丁度、この岩山の崖下である。
まさか前のことを覚えている人間がいるとは。
「だが、マナを失った冒険者に捕まる俺ではない」
捕まるのはいい。名前もバレた以上、刑は免れないだろう。
だがこの写真は届けねばならない。仲間達に極楽を届けるために。
中堅クラスの手合いなら包囲を切り抜ける自信が男にはあった。こう見えて歴戦の傭兵である。
「あら、この島の冒険者と言った覚えはないわよ?」
「・・・何?」
リーダーらしき女が手を掲げる。すると、場に魔力が充ちていく。それも尋常ならぬ力。
「私達は別の世界から来ている。お前と同じように、な」
ここに至り初めて、男の背筋を冷たい汗が流れ落ちた。
「まさか・・・話には聞く、世界を渡る風紀委員会・・・!」
世界を渡る風紀委員会。こっけいな名前だが、あらゆる世界においてのモラルを守ってきた組織である。
夏の海や冬の温泉において不埒なことを考える男冒険者を悉く始末してきたという。
男冒険者にはそれこそ世界屈指の実力者も含まれていることもあるが、全て殲滅してきたという伝説。
その力は創造神から与えられたとも。そんな力の持ち主が、ざっと見て12名。
「・・・・・・なんだ、写真1枚くらい見逃してくれねえか?」
「奥さんの写真だったらよかったのにね」
魔力が急速に高まった。肉体の欠片すら残さず消し去れそうな力。
「安心しなさい、殺しはしないわ」「ま、夏の間は碌に動けない程度に力を封印させてもらうが」
男は身を翻し、跳躍した。無駄とわかっていてももがくしかない。写真機を大事に抱えて・・・
「「「因果、応報!!」」」
強烈な白い光が岩山ごと男を包む。
男達の夢が詰まった写真機は、脆くも男の腕の中でぱらぱらと崩れ去り。
皮膚に光が絡むと、もぞり、と嫌な音をたてて縛り上げる。
それはかってない激痛を男にもたらし、すぐに意識を奪い去った。
光はしばらく続き、収まったところで女達の姿は既になく。
またこれら一部始終は一切外部に漏れることなく、隠密に行われたという。
後には紫の死体・・・もとい、半死体のみが残され。
男の額には「覗き犯」と書かれた札が貼られていた――――
(このエピソードはフィクションです。実在する世界には何ら関係がございません、きっと)