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何かの残滓が波間に浮かび上がる

「 35日目日記 Seen3 」

35日目日記 Seen3

2010.07.15 Thursday 01:29

35日目日記 Seen3


Seen3 絆

「はぁ、はぁ、も、もう大丈夫だろ」
「そのようね」
息を切らせる二人。…いや、一人。銀髪の美女は顔色をほとんど変えていない。
「イ、イチハちゃん、体力あり、すぎだって」
「貴方が鍛えてなさすぎるのよ」
ザンを子供扱いしながらイチハは周囲を見渡した。
撒くように市場から森へ逃げたため、一周して再び市場に戻ってきたようだ。

「まあ、ここなら大丈夫でしょう」
場所は店が立ち並ぶメイン通りと冒険者達による出店の中間あたり。
騒ぎをおこした地点からはそれなりに離れている。
何より今回は遺跡外に出た冒険者が多いらしく、あたりは人でごった返していた。

「そ、そうかよ?まあ、イチハちゃんが言うならいいけどよ」
「それよりザン、病院で検査してもらわなくていいの?結構痛そうだけれど」
ようやく呼吸を整えた男。しきりに顔をさすっている。
「こ、このくらい平気だって!なんか、顔がすっげぇ痛いけどよ…」
「あらあら、まあ大丈夫じゃないかしら」
さらりと流すと、手をかざして太陽の高さを見た。日が落ちるにはまだ時間がある。

「食べ物はあちらのようね」
「あ、俺も腹が減ってきた。ちょうどいいや、一緒に買い物しようぜ!な、な!」
ここぞとばかりに同行を申し出るザン。
「そうね…途中で倒れられても困るわねぇ。買い物だけなら時間はあるかしら」
「よっしゃぁ!!そ、そうと決まれば買い物だ買い物!」
「身体がおかしければ、無理しないで早く帰って休むのよ」
「平気だって!ほら、このとおりピンピンしてるって!」
一緒、と決まった途端に元気になった男。女が絡むと体力は底なしである。
もはやデート気分なのだろうか、顔はだらしなく緩んでいた。
「仕方がないわねぇ」

こうして二人の買い物は始まった。張り切って荷物を持とうとするザン。
無理しないの、と諭しながらテキパキと必要なものを買うイチハ。
予定していた取引も一部済ませ、市場の外れに来るころには空が赤く染まりつつあった。

「予想以上に時間がかかったわ」
「ちょっと人が多かったよな。でもさ、俺は楽しかったぜ!」
そんな会話をしながら二人が帰路につこうとしたその時。

「ひ、ひ、人殺しだーーーー」

同時に振り返る二人。見れば、食料品店の並ぶ方向で何かが起きているようだ。
その方向からどんどん人が逃げてくる。
「な、なんだよ、また何かあったのかよ」
それに答えず、じっと見つめるイチハ。
そのうちにまた一人、逃げながら叫ぶ者がいた。
「肉屋が、肉屋が襲われてるぞ!!」
「肉屋?」と訝しがるイチハ。対照的に、ザンの顔はみるみる強張っていく。
「肉屋……ま、まさかアキの野郎か?!」
イチハが振り返る。美しい銀髪が夕日に輝くも、見惚れる余裕はない。
「…知り合いかしら?」
「おう。…ま、ダチって言えるかわかんねえけどよ」
そういう男の横顔は、俄かに真剣味を帯びていた。

「…戻るの?」
「………」
「戻ったら、捕まるかもしれないわ」
同じ市場に先ほどの部隊がまだいるかもしれない。時間はかなり限られているだろう。
いつもの男なら、真っ先に逃げていたはず。少なくとも勇気とは程遠い男。
「…同志、だからよ」
「…同志?」
「くだらねぇことだけどよ、なんつーか…同じ男、だしよ」
明らかに迷いが見て取れる。肩も心なしか震えていた。
それでもザンは、一歩、今通った道へと踏み出す。ゆっくりと、ゆっくりと。
「野郎なんざどうなろうかしったこっちゃねえけどよ…あいつの肉まん、マジでうまかったしよ」
それはイチハに言っているのか、それとも己に言い聞かせているのか。
「うまい飯くわせてもらって、見過ごしたんじゃ……寝覚めわりぃし、よ」
もう一歩踏み出す。今度は少し力強かった。ほんの一瞬、彼の身体を白い光が包んだのは勇気の光か。

「決まり、のようね」
「お、おう」
「なら急がないと駄目よ」
「わ、わかってるっての」
そこまで聞いてイチハが走り出した。
慌ててザンもついていく。
「い、いや、だから速いって!」

こうして、押し寄せる人の波に抗いながら肉屋の店を目指す。
人の流れをイチハがすいすいかきわけ、その銀髪を目印にザンが転がりながら追いかけて。
ほどなくして目的の場所付近につく。あたりには血が飛び散り、怒号が飛び交っていた。
「こっちはどうだ?」「だめだ!!」「こっちは生きてるぞ!」「誰か医者いねぇのか!」
錯綜する情報。思わずザンは立ちすくむ。そこは戦場、であった。
そんな状況でもイチハは冷静に周囲の分析をすすめる。
集中して聞けば、肉屋というキーワードが集中している場所があった。
派手に窓が壊れた建物の前。一際血が集中している場所。
「ほら、こっちよ」
ザンを促すと人だかりの1つに近づいていく。
肉屋がどうの、大丈夫か、などという声が何度も聞こえてきた。
男もようやく気づき、人だかりの中にわけいってゆく。
「お、おい、通してくれ、肉屋の知り合いだ」
通りにくい身体を無理にねじこんでいくと、一人の男が誰かを抱えていた。
見覚えのある癖っ毛が見える。その服は血で染まっているが、白い服だったに違いない。
間違いなく、肉屋の主人佐倉アキであった。その顔に生気はない。

「お、おい、アキ!アキ!」
思わずザンが駆け寄ると抱きかかえていた青年が叫ぶ。
「あんた知り合いか!医者か命術士呼んでくれ!このままじゃ危ない!!」
「い、医者たって」
ザンは振り返ってイチハを見た。無言で首を振るイチハ。
「く、くそっ…」
「ザン、貴方命術を使えるでしょう」
「い、いやそうだけどよ、こんな怪我治したことねぇって」
ぐずるうちに、アキを介抱している青年がザンの脚を掴んだ。
「ぐずぐず言ってる暇は無い!君がやらなきゃ彼は死ぬぞ!!!」
「け、けどよ…」
その時、周りにいた誰かが叫んだ。

「彼女にいいとこ見せねぇと男がすたるぜ!!」

「…彼女!」
瞬間。ザンの脳内に妄想が怒涛のごとく広がっていく。
彼女。かのじょ。なんと素晴らしい、甘美な響きであろうか。
ザンの顔が俄かに緩んだのを見て、イチハが声をかける。
「……ザン?」
振り返った男の顔は、色々と漲っていた。

「よーしやってやんぜ!」
アキの血塗られた胸におもむろに手を当てる。
イチハが急ぎその辺りから奪い取った酒を傷口付近にかけ。
ザンが念をこめるとピンク色のオーラが手のひらから放たれた。
煩悩こそが男の術の源である。生命力そのものを分け与える形に近い。
このオーラがアキに吸い込まれれば、少なくとも死ぬことはない。
………はずだった。

「……おい、いつになったら始まるんだ?」
青年が訝しがる。それも当然、ピンク色の光は宙をえんえんと漂っている。
「……ひょっとして女の子にしか効果ないのかしら」
光はアキよりむしろイチハに近づいている。すり寄る光さえあった。
「……………」 ザンは、無言でイチハに纏わりつくそれらを見つめていた。

「くっ、まずい、脈が弱くなってきたっ」
「ど、どうすっよ」
「ここは止血して病院に向かうしかないわね」
「止血たって、どうすんだよ?!」
「私がやるわ、ザンは手伝いなさい」
「僕は医者や命術士がいないかもう一度探してくる」
「なら俺は酒を」「薬どっかにあるかな」「お願いするわ」
いつしかイチハが指揮をとっていた。みな黙々と従っている。
しかし、問題があった。包帯のための布が圧倒的に足りないのだ。
「包帯が足りねぇ!」「服やぶれ服!」「だめだ、長さがたりねぇ!!!」
おりしも季節は夏。都合よく強度があり、かつ袖の長い服などあるはずもなかった。
絶望が一瞬顔を覗かせた、その時。


「これ使ってください!」

天使が、舞い降りた。

「………な、なぜるちゃん?!」
天使の名はなぜる。風の申し子、たなびくマフラーがトレードマークの少女。
その彼女が、大切なマフラーを差し出していた。
長く、丈夫な布。何より彼女の心がこもっている。薄闇の中、うっすらと光すら放つ美しさ―――

「…大切に、使わせてもらうわ」
いいのかよ。ザンは喉から流れ出そうになった言葉を飲み込んだ。
血にまみれることを承知で彼女は使って欲しい、と言ったのだ。
どれほど鈍い男とて、あの瞳を見れば感じずにはいられないだろう。
ただちにイチハがマフラーを受け取り裂き始める。その手に一切のためらいはない。
「…なぜるちゃん、俺は身体を浮かせっからよ、イチハたんの手伝い頼む」
「はい!」

いよいよ陽は沈み、空も紅より紺と変わり行く。
迫る闇からアキの命を救わんと、必死の救出作業は続いて――――

【Seen4  へ続く】

(Eno328なぜるさん、428アキさんを新たにお借りしました。お二人の日記に連動しています)

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