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何かの残滓が波間に浮かび上がる

「 35日目日記 Seen1 」

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2024.04.23 Tuesday 16:00

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35日目日記 Seen1

2010.07.15 Thursday 01:18

35日目日記 Seen1

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Seen 1 暴走 

ドドドドドドドドド
それは突然のことであった。

自称脱がし屋、通称エロデブの男。(時々豊満な変態とも)
遺跡外に戻り、いつものようにだらだらと過ごし。
暑さに耐えかね市場に転げ出ると屋台の集まり。
なんでも蛍祭りで好評だったらしい。
目の色を変えると食い歩きに食い歩き。
前を通る女性を凝視しては舌を躍らせ。
格好つけのためにもってきた鎧を誇らしげに強調し。
鍋に手を出し金髪美女の胸を目視したところで、妙な香りと地響きと天罰…もとい災難が訊ねてきた。

「ザンさん、助けて下さい!
   それはフレグランスさんです…!」

誰の声かと知る前に、身体がぐらりと傾く。
地鳴りに驚いた時点で既にバランスを崩していたのだ。

「ウ、ウウウウウ!!!!!」

視界を塞ぐ、けばけばしいピンク色の巨体。
今までに味わったことのないプレッシャー。

「お、お、おい、な、なんだよ」
ずり、と腰をついたまま後ずさるザン。背中に何かがぶつかったところに再び声が届いた。
「ザンさん、フレグランスさんが、フレグランスさんが――――」
途切れ途切れで聞き取れない。目の前の何かが音すらも塞いでいる。
目を白黒させているうちに巨体が動いた。男を覆う影。
「あっ、危ない、ザンさ―――」
危機を告げる声。よく見れば4本の足に蹄、長い首にたてがみ、これは馬といえるだろうか。
その馬は一際身体を震わせると、屋台の布に噛み付いた。
鍋などを敷くための長い布。鍋の中には熱々のスープ。ちょうどザンの頭上に位置する。
結果は自明であった。太って鈍い身体、頭から全身へと大やけどを負うに違いない。
…そのはずだった。だが、男の身体は一瞬…その一瞬、俊敏であった。
「ちょ、な、なんだよ馬がなんでこんなところに!!」
何かをひっつかむと落ちる鍋に向かって突き出し――
「あち、あちあちちちち!」
木製の椅子は奇跡的に鍋本体と中身を逸らすことに成功した。
いくつか被弾したようだが女性のビンタに比べれば軽いものだろう。
「こっちくんな!」
恐怖と怒りと何かが混じった叫び。無意識のうちに2つめの椅子をひっつかむと投げつける。
が、軌道は大きく逸れて別の屋台にヒットした。幸い至近に人影はない。
どうやら男1人が最後まで逃げ遅れたようである。

「てか何で俺なんだよ!さなぎちゃん、どこだっての!」
男が叫びながら声の主、おそらくさなぎという少女だろう、彼女を探す間に状況は悪化していた。
投げられた椅子を攻撃行動と判断したのか、馬らしきものは明確な敵意をザンに向けてきたのだ。
「NEIGH!!!!!!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁ」
とっさに屋台の影に隠れるも、そこを踏み砕く蹄。
全身から紫の何かを放出する巨体。さらに口から煙を吐き出すと、ザンを探してか周囲を睨み付ける。

「げほ、げっほ、やべぇ、あんなのに踏まれたら死んじまうって!」
煙を大きく吸い込み、咽ながらも必死に別の屋台の陰に隠れてる。
「まったくやっつうの」
「ほげぇ?!」
突然の声に見れば、ねじり鉢巻に褌、いかにも屋台のオヤジらしき人物が隣にいた。
「あんた、冒険者やろ?とっとと止めてくれや」
「ちょ、ちょっと待てよ、無理だって」
「じゃないと壊したやつあんたに請求すんで」
「無茶いうなって!」

がらがらがっしゃーん。

何かが壊れた音。原因はいちいち想像する必要もない。
「はよせんと一生タダ働きやでアンタ」
「う、うう」
滅茶苦茶な話だが動転しているからか、納得してしまう男。
その間も屋台がひとつ、またひとつと倒されていく。
「し、しかたねえ…いっとくけど何か壊しても追っ払うためだかんな!ツケは全部アイツによ!」
そう言うと、すぐ横に迫る馬めがけて身体をとびこませていった。

がらがらがっしゃーん。

「URYYY!!!!!!」
「か、からぶったーーー?!」

…どうやらそう簡単にはいかないようである。
わめきながら再び別の屋台の陰へ転がり込む男。そろそろ無事な屋台のほうが少なくなってきた。
転がっては逃げるを繰り返す中、ようやくザンは気づく。
「フレ…フレ、ってフレグランスのことかよ?!」
フレグランス。通称怪人。素性はよく知らないが、駄菓子屋のおねーさんとデートしてたことは覚えている。

がらがらがっしゃーん。

いい加減聞き飽きる音がまた繰り返された。逃げては足を蹴ったり椅子を投げたりするも一向に効果がない。
妙な臭い、これを馬臭さというのだろうか、吸う度に何か嫌なものがこみあげる。
少女の心配する声がむなしく響いた。追い詰められたのかザンの顔は真っ白であった。
「ひぃ、はぁ、これじゃもたねぇ! …ん、まてよ、ここでうまいことやりゃさなぎちゃんゲットのチャンスじゃね?」
そう考えた瞬間。男の中で何かがごとり、と動いた。恐怖を忘れさせるような衝動。
奥にあった大きなゴミ箱の陰へ転がると懐から秘蔵のナンパ本を取り出す。そして、瞑想。…妄想。
「さなぎちゃん、さなぎちゃん、さなぎちゃん……」
口に出せないようなことまで妄想すると、体中に力が漲ってくる。
男が習得した力、満身創痍。もっとも未だ不完全であるが。妄想は片翼にすぎない。

さらに男は気のコントロールに入る。身体の一部を鋼鉄のごとき硬さにする力。
この力だけでは馬に対抗し難いと本能で感じたのだろうか。
そのために全身から一度気力を振り絞ろうとした―――その時。

ドクン

何かが男の体内で脈を打つ。今までに男が持ったことのない感情が全身を貫き。
破壊衝動。何かを滅茶苦茶にしてやりたい、すべてを否定したい。
それが男のもつ煩悩と混ざり、危険な衝動をも生み出す。
犯す、犯す、犯す。女を押し倒し、犯す。
この男、いや男の一族で絶対の禁忌とされている衝動。
行動自体にも多くの制限が課せられている男だったが、この感情は内に持った時点で厳罰が下される。
案の上男の頭上、俄かに雷雲が発生し意識を失うほどの電撃を――――

何も、起こらなかった。
男は荒い息をつき虚空を、馬を睨んでいる。
ふしゅうと吐く息からは馬、いやフレグランスが放つそれと同じ臭いがした。
マナ、である。
この島から溢れる狂気の力を男もとりこんでしまったのだ。
フレグランスが吐き出す呼気、そこには濃密なマナが漂っていた。
それを知らず吸い続けた男。既に瞳は焦点を失っている。

「あ、ああ………ァ、ァア、ア――――」

かくして暴走した者同士、激戦の幕が開けた。

「URYYY!!!!!!」
「……。」
「GRRRRRRRRRRRRR!!!」
「ウオォォォォォッッッ!!」

激しい肉弾戦。暴れ馬を正面から受け止める男。
その身体にまとう鎧は黒く光っていた。
まだ島では希少な重々しい鎧、それに煩悩の力、マナの吸引。
これらがあわさることで暴走したフレグランスと五分の戦いを演じているのだ。

「───っ!?ざ、ザン、さん?
様子が…ど、どうなさったんですか…?ああ、どうしよう……」
見守っていた少女さなぎも異変に気づいた。
二人が拮抗した結果、周囲には余裕が生まれ見物人も増え始める。
だが、止めようとする者は現れない。

戦闘は膠着状態に陥っていた。しかしゆっくりと、ゆっくりと天秤は傾いてゆく。
暴走したザンはマナを魔法力と化しぶつける。時折正気に戻るも一瞬で意識は飲み込まれ、命中精度は低いものの。
フレグランスの体力をじわじわと奪っていくには十分な効果があった。
一方フレグランスは当初こそ勢いがあったものの、いつしか身体ではなく触手を振り回すのみであった。
よくよく見ればフレグランスの身体にいくつか穴が開き、血が流れている。
暴走した男の未熟な魔法などではなく、もっと凝縮された高度な魔力によるもの。
手負いの獣。そう、始まる前から既に勝敗の行方は決まっていたのだ。

「グウウウウ…っ…!!!」
生命の危機を感じるたび、獣は苦しげに地を蹴り後ろ脚を跳ね上げ、まるでのたうつようにもがく。
本能で我が身に術をかけているのだろうか。身体をよじり、地を幾度も蹴り、触手をうねらせ。
何度もザンに倒される度、その身体を奮い起こす。何かに抗うかのごとく…

それでもいつか、戦いの終焉は訪れる。
身体に痛みを覚えれば覚えるほど力が増していくザンの魔法力。
数え切れないほどフレグランスの身体を撃った時、魔法のあとにタックルをあびせ。
フレグランスの脚から力が抜け――――――

どさっ。

先に倒れたのは……ザンであった。
フレグランスが弱ったためマナの放出も減り、結果としてザンが吸引する量を打ち出す量が上回ったのだ。
力が抜けたようにその場に倒れこむ。
「ぐ、、、っ、ぁあ、あああああ!!!!!」
暴れ馬も苦しみ、もがきにもがいた後踵を返して駆けだした。ザンを1回思いっきり踏みつけながら。
現場にはずいぶん薄れた馬肉の臭い、破壊された屋台、倒れた男が残される。
「あっ、ふ、フレグランスさん、待って!
───っ、、、ザンさん、ザンさん、ご無事ですか、、、?!ああ、どうしたら、、、」
少女はおろおろとザンとフレグランスの駆け去った方角を見比べる。
結局、「ごめんなさい」と言い残して怪人を追って行った。

やがて、見物人がぞろぞろと戦闘の中心周辺へ集まりはじめ――――

(Eno218未確認生命体Fさん、431下井丸さなぎさん、某金髪の女将様をお借りしました)
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